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miyamoto

心の中に部屋をもつ



私が大学院生の頃、遊戯療法について(特に遊戯療法におけるセラピストの姿勢について)学ぶ時間に、松岡享子さんの『サンタクロースの部屋―子どもと本をめぐって―』という本の冒頭に書かれている文章を読みました。最近になってまた読み返してみて、良いなと感じたので文章の一部をここで紹介したいと思います。


「心の中に、ひとたびサンタクロースを住まわせた子は、心の中に、サンタクロースを収容する空間をつくりあげている。サンタクロースその人は、いつかその子の心の外へ出て行ってしまうだろう。だが、サンタクロースが占めていた心の空間は、その子の中に残る。この空間がある限り、人は成長に従って、サンタクロースに代わる新しい住人を、ここに迎え入れることができる」(『サンタクロースの部屋―子どもと本をめぐって―』より)


松岡さんの話を読んで「一人でいられる能力 capacity to be alone」という言葉が思い浮かびました。これはイギリスの小児科・精神科医ドナルド・ウィニコットという人が用いた言葉です。この「一人でいられる能力」の「一人でいる」というのには、2つの意味があります。1つは、一人でいる時でも(心の中に大切な誰かがいるから)あまり不安にならずにいられる、ということ。もう1つは、誰かといてもその存在に必要以上に怯えず一人でいられる(自分らしくいられる)ということです。そしてこの能力は、幼い時期に母親(安心を与えてくれる他者)と同じ空間にいて、一人でいられた体験をすることで大きく育つと言われています。


こんな情景が思い浮かびます。母親または父親が料理をしながら、あるいは洗濯物たたんだり、新聞を読んだりしながら、同じ空間に子どもがいて、その子どもは絵を描いたり、積み木をしたりと遊びに夢中になっている。たまに子どもが親の方に寄ってくる。親がそれに応えて、しばらくすると子どもはまた遊びに夢中になる。

日常にありふれた情景ですが、この当たり前の生活を通して、子どもは大切なお父さん・お母さんの「温かいまなざし」を取り入れるのと同時に、その「温かいまなざし」を置いておく部屋(Capacity)を心の中に作っていくのだと思います。心の中に部屋を作ることで、親だけでなく、その後出会う大切なものをそこに迎え入れることもできるし、そうでないものから自分を守ることもできるようになるのではないかと思います。


子どもがただ遊んでいるだけのように見えても、心の中に部屋を作るという大切な作業をしているのかもしれないなと思って、子どもが自分のことに没頭できる時間を温かく見守っていただけたらと思います。

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